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神戸地方裁判所 昭和38年(ワ)571号 判決

原告 武井忠兵衛

右訴訟代理人弁護士 加納制一

被告 神扇不動産株式会社

右代表者代表取締役 中村謙蔵

右訴訟代理人弁護士 古高健司

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し、金一九万円及びこれに対する昭和三八年五月二五日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、次のとおり述べた。

原告及び被告はそれぞれ宅地建物取引業法による登録業者である訴外日本コロムビア株式会社が同飯田株式会社より同社所有の神戸市葺合区御幸通四丁目一番地の五の宅地及び同地上建物(以下本件宅地建物という)を買受けるに当り、原告は被告と共に、右日本コロンビア株式会社の共同仲介人として尽力し、同三八年五月一六日右買買契約は成立した。而して原告と被告との間において、報酬金は折半して分配する約定がある処、被告は右売買契約成立の日に、右日本コロンビア株式会社から仲介報酬として金五〇万円を受取りながら、その内金六万円を原告に交付したのみである。原告は被告に対して、同三八年五月二三日付内容証明郵便を以て、残額金一九万円の支払いを求め右通知は二四日に到達した。よつて原告は右残額の金一九万円及び前記請求の意思表示が到達した日の翌日より完済に至るまでの遅延損害金の支払いを求めるため本訴に及んだのである。

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「請求原因中、原告、被告がともに宅地建物取引業法による登録業者であること、昭和三八年五月一六日に訴外飯田株式会社と同日本コロンビア株式会社間で本件宅地建物の売買がなされたこと、及び右売買契約成立の日に被告が右日本コロンビア株式会社から、本件宅地建物の売買の仲介報酬として金五〇万円を受取つたことはいずれも認めるが、被告が内金として金六万円を原告に交付したとの主張については、それは内金として被告が交付したものではなく、被告代表者中村謙蔵が個人として好意的に提供したもので、本来原告に交付する必要のなかつたものである。その余の主張もすべて否認する。」と述べ、抗弁として「本件宅地建物の仲介は、被告が原告以外の同業者から日本コロンビアが神戸市内で二、〇〇〇万円程度の敷地附のビルを買う意思があるからと仲介を依頼され、それに基き原告が訴外三井不動産株式会社を通じて飯田株式会社を紹介されて売買が成立したもので、原告から得た情報は不確かな情報であつたため、同年一月一六日頃不成就に終つた。即ち本件売買成立と原告よりの情報提供との間に因果関係はない、と述べた。

証拠≪省略≫

理由

一、原告及び被告がともに宅地建物取引業法による登録業者であること、昭和三八年五月一六日、訴外日本コロンビア株式会社と訴外飯田株式会社との間で本件宅地建物の売買契約が成立し、同日被告が右日本コロンビア株式会社から仲介報酬として金五〇万円を受取つたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二、証人佐野益太郎、段松次郎、原告本人被告会社代表者中村謙蔵、各尋問の結果によれば、訴外日本コロンビア電機株式会社は従来三宮にあつた同社神戸営業所の社屋が手狭であつたため、新しく移転するところを物色していて昭和三七年一一月頃当時日本コロンビア神戸営業所長をしていた佐野益太郎が神戸駅附近を物色したところ、適当と思われる土地があつたが、その内容をより詳しく知るため電話帳によりその土地附近に住む業者たる原告を探し出し原告にその土地内容調査を依頼したが日本コロンビアの望む条件と合はないことが判明したためこの件は打切り原告に三宮方面やその他でもよいから適当な物件があつたら探してくれと依頼したこと、その頃原告が三宮へ前記佐野益太郎を訪ねて行き、同人と附近の食堂で昼食をしたことがあり、その時丁度被告代表者中村謙蔵もそこへ来合せていたため、原告は佐野に中村を紹介し、佐野の方で適当な物件を探しているからあつたら探してくれと話したこと、そのため被告方の社員段松次郎が原告とともに佐野に会い被告方で知つている数ヶ所の物件を案内したところ何れも日本コロンビアの気に入るところとならず成立しなかつたが、翌三八年一月佐野は同被告に対し土地だけの件は一応そのままとして一五〇〇万円から二〇〇〇万円のビルを探してくれと依頼したこと、そのため被告の方では数ヶ月に亘り各方面を物色した後、訴外三井不動産を通じ訴外飯田株式会社が葺合区御幸通りにある本件土地附建物を売り出していることを知りそれを日本コロンビアに通知したところ条件に適い、昭和三八年五月一六日訴外宮信司法書士方で両者間の売買契約が成立したこと、その間の昭和三八年二月から三月にかけて原告は病気で入院するようなことがありこの売買について尽力するところは何らなかつたが日本コロンビアに対しては契約が成立したら知らせてくれたと申込んであつたため佐野は前記契約成立の一日か二日前その旨を原告に知らせ原告は当日宮信司法書士方に来て契約成立に立会つたこと、又当日日本コロンビアは被告方に於て被告に報酬金五〇万円を支払つたこと、原告は又この場所にも立会い、段松次郎に対し、原告が根付けで被告が先手であるから報酬金五〇万円の半分をよこせと要求したが段はそれは社長にいうてくれとこれを断つたこと、その数日後原告は被告方へ報酬金の要求に行つたところ被告の方では日本コロンビアが飯田株式会社から買つた物件の仲介は、原告が被告に紹介した土地の周旋とは全く別個であるから報酬を出す理由はないが別の意味で金一封を渡すとして金六万円を渡したが原告はこの解釈に承服せず争となつたことの各事実が認められる。しかし原被告間に於て事前又は事後に於て報酬を折半する契約があつたと認められる証拠はなく、原告が被告と共同して本件売買の仲介に尽力したと認められる証拠もない。

されば原告の請求原因が両者間の折半契約であるという限り、この契約の存在が認められないから原告の請求は棄却を免れないことになるが原告の主張の中には事実たる慣習により当事者がそれによる意思を有していたからそれにより半額を求むという意思を含むものと解されるので更に判断を進める。

三、被告は先づ成立した売買と原告が被告に日本コロムビアを紹介し物件の周旋を依頼したこととの間に因果関係なしと主張しているので案ずるに日本コロムビアが当初望んでいたものが土地であり原告が当初被告に日本コロムビアに紹介したときも土地を対象としたこと、しかし現実に成立した契約は土地を備えた建物であつたことは前記の通りであり証人段松次郎や被告代表者は原告の紹介した話は一旦中断し、改めて日本コロムビアからビルの周旋を頼まれたといつていて形式的に見れば両者は別個のものと見られないことはないが、こういう場合の解釈は厳密に同一である必要はなく類似乃至その大部分に於て一致すれば足るものと解され被告の周旋行為は原告が最初に依頼を受け(これを原被告らの間では根付けというている)たことの延長で因果関係なしとはいえないので被告が原告に報酬を与える必要なしという主張は採用できず被告は原告に報酬の一部を与うべきものと判断する。従つて被告が支払つた六万円は被告が支払つた報酬の一部と認める。

四、そこでその報酬額について案ずる。

証人相沢正国、鑑定証人目賀祥介の証言によれば神戸市内の宅地建物取引業者の間に於ては客より物件仲介の依頼を受けた業者が手許に適当な物件がなかつたり依頼の趣旨に沿つた目的物を見つけられない場合には他の業者に伝えて適当な目的物を見つけてもらうか、或いは適当な目的物が見つかつたら仲介してくれるように依頼するのが一般であること(この根付業者から更に依頼される業者を先手業者というている)。しかして、根付業者と先手業者とが協同して客の依頼の趣旨に沿つて目的物を仲介し、契約を成立させた場合は勿論、先手業者が単独でそれをなした場合でも、その報酬は根付業者先手業者間で折半して分配する慣行が存在していることが認められるが一方証人段松次郎、北条嘉彦の証言によればこれは根付業者が先手業者に依頼を発して余り永くない期間内に、従つて余り多くの費用労力を要せずに契約を成立させた場合に適用されるが相当永い期間にわたり多くの経費・労力等を用いて仲介に奔走をし、契約を成立させた場合の報酬の配分については、特約がない以上その仲介の難易、要した期間・経費・労力等の事情を斟酌して仕事の割合により配分することが行われ、このような場合にまで常に根付業者が、報酬の二分の一を取得する慣行が業者間で認められているとは認め難い。

右認定の業者間の報酬分配の慣行と前記認定の諸事実とを併せ考えると、原告は被告代表者中村謙蔵に対して、右日本コロムビア株式会社が不動産を探しているので適当なものがあつたら紹介して欲しい旨依頼ししばらく土地を探したのみで、その後は殆んど被告と協力して尽力をしたことがないのに被告は約六ヶ月の間単独で社員を使い百方尽力した結果、本件土地建物を見つけてその売買契約を成立させたものであるから、その仲介報酬の分配は折半という業者間の普通の慣行にもとずいて定めることに合理性ありとは認め難い。而してすでに被告は原告にその報酬として金六万円を交付しているのであり、証人段松次郎や被告代表者はこの場合の金額としてこれを以て妥当な金額なりといい当裁判所も亦これを以て必ずしも不相当の金額であるとは認めないので原告の請求は理由がない。よつてこれを棄却し、訴訟費用については民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 菊地博)

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